茶道の歴史

茶道の誕生

　室町時代初期、足利将軍家を中心に茶道具が吟味され、お茶文化は優美に発展していきます。特に北山文化を象徴する貴族的・華麗な「書院の茶」は、優れた唐物（中国）の絵画・墨蹟（ぼくせき）・花入・香炉・文房具などを観賞しながら、お茶を飲む茶の湯として親しまれました。
　室町時代の中期になると、茶道の始祖 村田珠光（むらた・じゅこう）が茶道の源流を確立します。珠光は、形骸化した当時の政治や仏教を風刺するなど、形式にとらわれない行動と人間らしい生き方を追求する大徳寺の僧侶 一休宗純（いっきゅう・そうじゅん：俗に言う「一休さん」）の門下に入りました。風狂の精神を持つ一休は、後小松天皇の御落胤（ごらくいん：身分の高い男性が正妻以外の身分の低い女性に産ませた子）とも言われているボサボサ頭に、ボーボーの髭という風貌でしたが、庶民の評判が高く、花や連歌に精通した多くの文化人が一休のもとで研鑽を積んだと伝えられています。
　そのうちの一人であった珠光は、「仏法も茶の湯のなかにあり」という一休の教えを受け、「茶禅一味」（茶も禅も同じ）とする悟りの境地に至ります。修行を終えた後も、一休から授けられた中国の有名な僧侶の墨蹟を床の間に掛け、その方が茶室にいるような心持ちで茶の湯に精進しました。
　また、珠光は、禅宗の影響を受けた簡素なものに美しさを見出し、唐物ではない日本に古くからある粗末な茶道具を好み、書院から四畳半の草庵の狭い茶室を使う「侘び茶」と呼ばれる新たな美意識を茶の湯文化にもたらしました。こうして茶の湯文化は禅宗と深く関係するようになり、「茶禅一味」の境地・悟道としての茶道が誕生したのです。

茶道大成期

　室町時代中期に、対明（中国）貿易で巨大な富を得た堺の商人は、利益の後に求める文化として茶の湯を嗜みました。応仁の乱で荒廃した京都の戦乱を避けるべく、多くの人々が自由都市 堺の地へと集まっていきます。その一人である武野紹鷗（たけの・じょうおう）は、三条西実隆から和歌や連歌を学び、珠光流の茶の湯を一段と進展させました。紹鷗は、堺の豪商や武人とも交流を持ち、今井宗久、津田宗達、千利休をはじめとする多くのすぐれた茶人を輩出しました。
　堺は会合衆（えごうしゅう）と呼ばれる豪商の納屋衆（なやしゅう）によって管理するという、自治都市を形成し、武士の侵略を受け付けない商人の町として栄え、尚且つ鉄砲の生産地でもありました。全国統一の地盤を固めていた織田信長は、経済政策上と鉄砲の入手において重要な堺を支配下に置こうと、上洛するとともに堺の支配に着手しました。文化面で堺衆の心のよりどころであった茶の湯の世界を掌握するために今井宗久や千利休との交遊を深め、名物茶器の収集にのりだしました。必然的に茶器の価値も上がり、領地の代わりに下賜されるなど茶器が天下統一事業を推し進める一面もあったほどです。
　信長の後継者となった豊臣秀吉も、同様に茶の湯を愛好しました。秀吉は茶の湯を通して大名を支配下に入れるために信長の茶頭であった千利休を登用しました。珠光ー紹鷗の流れを受け継いだ利休の茶の湯は、戦国時代末期の世相の中に自己を厳しく律し、山を谷、西を東とするような禅の精神面を強調した強固な主観的な面を露わにしたものでした。余分なものを取り払い、亭主と客との距離をぎりぎりまで縮めようとする精神は、他社に辿り着けない至高の境地でした。こうして利休によって茶道が大成されました。
　しかし、利休の茶の湯に対する信念や激しさは、ともすれば秀吉との対立を引き起こします。商人の利休に大名以上の権力を持たせておくのは良策とは言えなかったことも影響し、利休は秀吉によって士農工商の身分制度を制定した年に切腹させられました。

茶道の完成と江戸時代

　天下が豊臣から徳川に移つり、安定した泰平の世になると文化の面でも穏やかな美を求める時代となります。利休の死後、利休の弟子で利休七哲の一人である古田織部（ふるた・おりべ）は、静の中の美を求めた利休に対して、動の中の美を捉えます。特に瀬戸茶碗のひずんだ沓形茶碗（織部焼）に象徴されるような「ひょうげもの」と云われた不整調の美を主張して、利休の教える創意工夫を発展的に解釈した茶道を展開しました。茶道完成までの過渡的な茶で、豊臣から徳川への政権移動の時代を象徴する、不安定さが垣間見える茶の湯でした。
　織部の後継者として、徳川泰平時代に登場したのが小堀遠州です。豊かさを求め戦国時代の混乱と破壊から立ち上がろうとるす武家と町衆が受け入れたのは、利休の精神性を強調する直接的な茶道と侘びに徹した茶道ではなく、織部の創作性が行き過ぎた歪んだ美でもなく、安定と調和のとれた小堀遠州の茶道だったのです。「綺麗さび」と呼ばれる遠州の美意識は、禅を第一とする精神的茶道を継承し、草庵と書院の茶を融合させ、静の美と動の美、無作意といわれる利休と不均衡の織部の、短所を捨て長所を採り入れ、精神的にも美的にも整調の茶として、寛永文化の主流を形成しました。
　小堀遠州は茶道全般の形態に客観的な美の要素を加え、精神面と普遍的美の融合をはかり、一方に片寄らない茶道をつくりあげました。珠光により創始された茶道は、ここでようやく完成を迎えたのです。

茶道の流派

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