ロジカルなルールこそが、茶道の魅力です!
~難しいと感じる作法にも、必ず理由がある~
アジアNo.1と言われるシンガポール国立大学でコンピュータを学び、現在は機械学習エンジニアとしてAI開発に携わっているコロア 宗宙(そうちゅう)さん。
そんなコロアさんに、外国人から見た遠州流茶道の魅力をお聞きしてきました。
-初めに、来日される前のことをお聞かせください。
出身はインドネシアですが、15歳の時からシンガポールで暮らしていました。大学を卒業してから3年ほどそのままシンガポールで働き、その後、日本へ来ました。
-ご家族は、シンガポールにお住まいですか?
いえ、今でもインドネシアですよ。シンガポールに渡ったのは進学のためで、私一人だけです。
-15歳で単身、外国で暮らすのは大変そうですね。
単身と言っても寄宿学校ですから寮生活ですし、同じように奨学金を貰って進学してきている仲間もたくさんいましたので、特に寂しいということはなかったです。
-とても日本語が上手ですが、来日してどれくらいですか?
まだ、一年くらいですね。
-えっ! 一年ですか?
そうです。日本語は大学の時に外国語の必修で選択していました。
専攻はコンピュータなのですが、日本語の授業も週に7時間あったので、必然的に話せるようになっていましたね(笑)
それに、もともと日本の文化に興味があったというのも大きいです。
-日本の文化に興味を持ったきっかけは?
アニメです!
それこそ小さい頃からドラえもんやセーラームーンといった日本のアニメで育ちました。インドネシアでも日本のアニメは大人気ですよ。漫画もかなり発行されています。
その後、学生時代に交換留学生として実際に日本に滞在して、いずれこの国で生活したいと思うようになりました。
-それで、お仕事の関係で来日することができたと。
いえ、それもちょっと違いまして・・・
確かに大学を卒業後、シンガポールで仕事をしていましたが、本当ならすぐにでも日本に来たかった。でも、卒業後のシンガポールでの就業が奨学制度の条件としてあったので、すぐに来ることはできなかったのです(笑)
-茶道との出会いを教えてください。
私が通っていたシンガポール国立大学には日本研究学科もあって、日本の伝統文化を学べる部活動も盛んでした。
もともと日本の文化に興味を持っていましたし、何か日本語の学習の手助けにもなるようなことをしたいと探していたところ、たまたま友人に誘われたのが茶道部だったのです。
そして、その茶道部で教えられている茶道が遠州流でした。
-シンガポール国立大学の茶道部は創立30周年。
かねてから遠州流が力を入れている活動の一つです。
現在のお家元も毎年欠かさず自ら赴いて、普及活動を行っていらっしゃいます。実は私も、在学中にお家元の手ほどきを受けたことがあるんですよ!
-茶道に抵抗はありませんでしたか?
日本に茶道という文化があることは知っていましたし、シンガポールでもごく普通にスーパーなどで緑茶は売っていますから、特に抵抗はなかったです。
高くて学生には手が出なかったですが、デパ地下には和菓子も売っていますしね。
でもやはり、最初は正座には苦労しました(苦笑)
-外国人であるコロアさんから見て、茶道の魅力とは
どのようなところでしょうか?
大きく分けて二つあります。
一つは、とても「ロジカル」なところです。
私たち外国人からすると、茶道は細かいルールが多くて難しいと感じます。私も最初はそうでした。手順も煩雑で、こなすだけで精いっぱいでした。
-私たち日本人の間でも、「細かくて堅苦しい」という
イメージが強く根付いています。
でも、少しずつ慣れてきてお点法をしっかり見る余裕が出てくると、その一つひとつにはちゃんと意味があるのだということが分かってきます。
例えば茶碗や茶杓の動かし方を一つとってみても、実は最終的な目標(=何をするか)から逆算して無駄のないように順番が決められているのです。
-一見すると意味の分からない動作にも理由があると。
そんな「理由」が分かってくると、それまで「細かくて難しいルール」だと思っていたものが、自然と受け入れられるようになります。
そして他にも「これはどうしてだろう?」「なぜこうするんだろう?」という疑問が、次から次へと湧いてくる。それが面白くてどんどんはまってしまいました。
中にはもちろん、禅問答のように哲学的なふわっとした理由もありますけどね(笑)
-学校教育にも採り入れられているからでしょうか、日本人からすると、
「無条件で守らなければならない規則」のように感じている部分があるような気がします。
もしそうだとしたらもったいないですよ!
まずは自分で考えてみて、分からなかったら聞けばいいんです。
絶対に「なるほど」という答えが返ってきますから!
-もう一つの魅力は、どんなところですか?
やはり、日本文化のより深いところまで関わることができることですね。
茶室や装飾、道具など、茶道には日本で育まれた芸術のすべてが詰まっていると言っても過言ではありません。それに、礼儀作法や相手を思いやる精神といった日本人の奥底にある心や考え方を学ぶこともできます。さらには、四季がある日本ならではの季節に応じた生活習慣など、日本の伝統文化のあらゆる要素が備わっているのです。
茶道を続ければ続けるほど、一つひとつの奥深さを実感できて、本当に「日本人のルーツ」が分かるような気がします。
-茶道において、もっとも大切にされていることは何でしょう?
思いやりの気持ちですね。まさに「おもてなしの精神」です。
亭主にとって一番大切なのは、お茶ではなくてお客さま。もてなされる客人も、亭主や列席している他のお客さまへの気配りを忘れない。とにかく「一番大切なのは自分ではない」という相手を敬う気持ちが、もっとも大切だと感じます。
-コロアさんが感じる、遠州流の魅力はどんなところですか?
個人的にはとてもフランクでおおらかだと感じています。武家茶道なので、お辞儀の仕方一つとってもダイナミックな印象がありますが、見た目だけでなく心の広さも兼ね備えていると思います。
外国人の場合、和菓子に興味を持ってそこから茶道に入るケースも多いですが、反対に和菓子が苦手な人にとっては敬遠しがちでもあります。でも、お稽古の時にはケーキやチョコレートといった洋菓子に合わせることもあるなど、とてもフレキシブルです。
実際に、海外のイベント(フランスだったと思いますが、違っていたらごめんなさい)でお家元がお点法を披露した際、茶菓子としてチョコレートを振舞ったという話を聞いたこともあります。
-最後に、コロアさんにとって茶道とは何ですか?
やらなければいけないことのストレスから解放されて、頭を切り替えることができる。気の合った仲間と楽しい時間が過ごせる平穏な空間ですね。
実は、今、お付き合いしている女性も、茶道を通して知り合った方だったりします(笑)
プロフィール
コロア 宗宙(ころあ そうちゅう)
出身地:インドネシア 年齢:28歳 茶道歴:8年 所属支部:東京支部(準師範)